KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年4月号
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美術家 横尾 忠則1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞受賞。横尾忠則現代美術館にて4/9より、開館10周年記念「横尾忠則 寒山拾得への道」展を開催。3/24、小説「原郷の森」(文藝春秋社)が刊行された。http://www.tadanoriyokoo.comなどは肉体の介在によって言葉を越えた言葉の世界を創造していることに改めて気づくのである。ある意味では、言葉を排除することで、より言葉の世界に迫ろうとするこの非言語的ハンディキャップは難聴を通して、新たな視覚言語の世界に迫ることが可能なのではないだろうかと、非言語的な世界を創造の領域としている美術家としての資質に思わず感謝したくなるのだ。本題から話がズレてしまったが、明らかに難聴をはさんでそれ以前とその後の作品に大きい変化を見るようになった。また当学芸員諸氏が、僕の難聴というハンディキャップをテーマにした展覧会をいつか計画するかもしれない。難聴は言葉の輪郭が明瞭さを欠く現象である。その状況を視覚に置き換えると、事物や色彩の輪郭が朦朧とすることである。存在する事物が溶けたり重なったりする現象から、個々の存在などさほど重要ではなく、実に曖昧で、本来どうでもいいことなのではないかと思うようになった。ねばならないという観念はいつの間にか僕の中から消えつつあるような気がして、うんと自由のキャパシティが拡大されていくような気がする。幸い美術は言葉を必要としない。だったら僕の中から難聴によって言葉が奪われていくということは実に自然体であるような気がする。「ヨコオ・マニアリスム vol.1」展2016.08.06 sat. - 2016.11.27 sun.横尾忠則現代美術館17

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