KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年4月号
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神戸で始まって 神戸で終る ㉖Tadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:山田 ミユキ第14回展は「ヨコオ・マニアリスム」と題して2016年8月6日から11月27日まで開催された。当館は僕の絵画、版画、ポスターなどを所蔵すると同時に、作品のモチーフとなった写真や印刷物、制作過程でのメモや下絵、版下、パレットのほか、作品から派生する商品やレコード蔵書などありとあらゆる興味の対象になったものをコレクションしている。このような多種多様な資料はダンボールに700箱にのぼるが、本展にはそのほんの一部が紹介された程度で、果たしてこのダンボールの箱が全部開放されるにはまだ10年、いや100年の時間を要するのでないか、と作家の僕は暗澹たる気持ちで、解消されないまま、彼岸に旅立つことになろうという事実だけは確かである。まあ気が遠くなる話であるが、考えようでは未来永劫、横尾忠則現代美術館に展示される作品や資料が存在しているといわけだ。さて本展の「ヨコオ・マニアリスム」は学芸員の平林恵によるキュレーションで、彼女のマニアック思考が存分に発揮された展示会になったのではないか。参考までに述べておくが、彼女の編集した当館のカタログは、一般書籍としても販売されたほど中味の濃い単行本になっている。美術館のブックストアーでぜひ手にして、この展示会が如何に多角的な切り口を持った展覧会であったかを想像していただきたい。また本文への解説は、作家の平野啓一郎さんからの「あなたの頭の中は、一体どうなっているんですか?」というアーティストへの問いが、本展をさらにミステリアスなものにしてくれている。そうか、本展は作家である僕の脳味噌を解体して見せられた展覧会だったのか。展覧会場は作品の情報があまりにも多様化していて、作家本人の僕でさえ、自らの肉体というか精神の迷路に押し出されたような気分になってしまった。会場の壁には大きい作品が展示されていると同時に所狭しといたるところに過剰なほど「創造」がはみ出しているが、この現象はそのままキュレーターの平林恵の脳味噌でもあるように思わないと、何だか自分がわけがわからない存在に仕立てあげられているように思えなくもない。一方でこれほど自虐的な快感体験はそう度々起こるも14

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