KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年3月号
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河野 裕 さん〈作家〉があって、血のつながりは重要かってことは書き始めからわりとテーマではあったんです。 “理性的”には血につながりなんて大切でもない、苦しいなら捨てて楽になりなよ、って思う。でも“感情的”には、私自身も血のつながった両親に守られて生きてきて、それは非常に貴重なものだと思っているから、単純にその価値を貶めればいいものではない。どちらの視点でも「自分は正しい」といえる自信がある。そういった自分の中の“矛盾”を小説の中心に置いて書くといい感じに形になると思ったんです。 結末の分からない作品を 書き進める面白さ。|“矛盾”がある方が書ける、というのは? 本来の私は、答えが分からないものをテーマにして、その答えを出そうと思いながら書く、のが基本的なスタンスです。作品の中のメインテーマは見えているけど、どう処理するかは分からずに書き始める。書き終えるまでに私の中で答えが出ればいいし、答えが出なければ、答えが出なかった小説として完結させようと…。|今作では答えは出ましたか。 登場人物と私の心理がほぼほぼイコールになったので、答えは出た、のかな。 今回の場合は、楓が血のつながった方の母親をどうするのかとか、彼女にどう話すのかとか考えてなくて、実際にそのシーンになったときに、まあそうなのかな、という感情になったので、ある程度答えに近づいたと思いますね。|プロットを立てずに、自由に書かれることが多いのですか。 立てない場合が多いですね。でも、むしろ全然自由ではない(笑)。イメージとしては、物語というのは太古の昔からこの世界のどっかに埋まっていて必死にそれを探り当てている感じです。自分が創っているというより、パズルゲームの答えを探しているという感覚です。 アリスの世界の “ジャバウォック”が 幻想世界との出入口に。|今作で、『鏡の国のアリス』をモチーフに取り入れた意図は。71

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