KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年3月号
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光と影の世界に没入したものだ。ボクの眼前では、日々の誰かの現実と、銀幕の中の誰かの現実が入れ替わり立ち代わりしていて、現実の憂さや切なさを慰められ、怒りを鎮められ、苦しみが和らぐ、かと思えば、銀幕の中の悦びや怒りに共感し、自分の感情も振り回された。でも、どっちの現実も、心を鍛える途中の自分には大事なことだった。改めて思うが、そんな幻影に遭遇してなかったら、今、どうしてたか見当もつか人間らしいオモロい奴、人間に見えないケッタイな奴が次々に現れる、そんなアメリカン・ニューシネマの洗礼を受けて、知らぬ間に二十歳を過ぎ、70年代の日々の喜怒哀楽を映画と共に生きられたのは、映画と無縁な人よりは幸福だったかも知れない。大阪や京都や兵庫や和歌山だろうと、そこの映画館で半月おきに替わる作品に出会うためなら、何処でも足を伸ばし、ご飯を食べる時間も金も惜しんで、そのない。18世紀のまだ英国の植民地だったアイルランド地方出身の、バリーという青年の流転の半生につき合わされて、こっちまで何十年も歳をとったような気になった傑作がある。スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』(76年)だ。前作の『時計じかけのオレンジ』(72年)は、暴力と性欲の限りをつくす不良青年が専制国家から精神治療の実験台にされる近未来を描く、あんまり井筒 和幸映画を かんがえるvol.12PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。46

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