KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年3月号
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|将来ジャズピアニストになることも? まだ、そこまでは…(笑)。ずっと先のことはわからないけれど、今はクラシックで勉強することがまだまだあるので。弾きたい作品がきりなくあるし、それには勉強しなければいけないから、ジャズまで行かないかもしれません。|ピアニストとしての理想像はありますか。 マルタ・アルゲリッチは現在80歳ですが、すごく情熱的で、歳を重ねるごとに技術が磨かれて、表現に深みがあるすばらしいピアニストです。僕はまだ若いけれど、まぁもう若くないけれど(笑)、彼女のように歳をとっても情熱の部分は衰えることなく、今よりもさらにいい演奏をしたいと思っています。 歳をとらないと、できない演奏ってあると思うんです。僕のことで言うと、20代には練習してもできなかった表現が、ちょっとできるようになった気がしています。演奏に少しは深みが出てきたかな。少しですけれど。|歳をとらないとできない演奏に対し、若い頃にしかできなかった演奏もありますか? 若い頃の僕は、けっこう勢いがあったと思います。その頃の僕には、必要な力でした。今は当時の勢いはなくなったかもしれませんが、それはマイナスではなく、当時足りなかった力はつけてきているのでプラスと考えたいです。|演奏に深み。そこに向かうためにどんなことを意識していますか。 僕にとっては「体験する」ことかもしれません。海外では、作曲家が住んでいた町を歩いたり、家に行ったり、ピアノを触る機会を頂くことがあります。「こういう部屋で曲を作っていたんだな」「こんな街に住んでいたんだな」と感じることは、自分の表現につながっていると思います。 今のピアノって進化しているんですよ。鍵盤の数は多いし音に厚みがあります。バロックから近代、現代と曲を弾いていると、ピアノの歴史もわかりますが、実際に弾かせてもらったことでイメージが広がりました。当時の楽器を知ってから、特にバロック時代の曲は演奏が変わりました。全然違ってしまったかも。|世界中のホールで演奏していますが、忘れられない場所は? ひとつだけ選ぶのは難しいけれど…。コンクールから2年後のカーネギーホールです。ものすごく緊張してしまって。普段も緊張しないわけではありませんが、その日はもうレベルの違う、コンクール以来の緊張です。あまりにピリピリしていて、まわりの人が近づけなかったそうです。アメリカのコンクールの優勝者として、アメリカのホールで絶対失敗はできないと思っていました。そればかり考えてしまって。プレッシャーでしょうね。でも、弾き始めたら曲にスーッと入り込むことができて、お客様演奏の思い出は、緊張と幸せと22

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