がずっと気になっていて。1年ほど経ってようやく奥様に会えたのでいきさつを話したら、奥様も「亡くなった後にきちんとご挨拶ができていないので作品展ができたらいいですね」と。─それで実現したんですね。版画をはじめて2年くらいの拙い作品展は笑われるのじゃないかと思ったのですが、時期が良かったんじゃないかな。たくさんの人に来ていただいて。作品を観てもらうより、この機会にいろいろな人に来てもらったのが嬉しかったですね。版画を褒めてくれる人も、俳句を褒めてくれる人もほとんどいなかったんです。でもみんな言うんですよ。「妙にマッチしてるね」って。─二人の共作だからこそ良かったということですね。出井さんが亡くなってから彫った版画も半分くらいあるんです。制作すると出井さんがいるような気がして。─特に思い出に残る作品はどれですか。基本的に出井さんの俳句から着想して版画にしていくんですが、「イメージが違う」とボツになったこともあります。いつも冷静沈着な出井さんが一番感情を出したのは、亡くなる2か月くらい前の作品「光る海」です。冬の空で、電線の上の烏が光る海を眺めているという俳句なんですが、感極まって電話で「あの烏は僕や」って。─展覧会で「ここを観てほしい」というのはありましたか。出井さんは経済学者としてものすごく優秀で、そういった側面はみなさんご存じでしたが、そうじゃない側面を観て欲しかったというのはありましたね。─これから、どのような活動をしていきたいですか。出井さんの俳句の作品をまだ全部彫れていないんですが、それをおいおいやっていきたいですね。ほかにも得津流の源氏物語絵巻とか、忠臣蔵も版画にしてみたい、楽しみながら。実は、末積製額さんに額装を頼んだら、ご主人と奥さんが作品を気に入ってくれたのか、展覧会に来てくれて、一緒に神戸の風景を版画にしませんかと言われたんです。でも研究者の嫌らしいところかな、ポートタワーとか嫌、忠臣蔵でも討ち入りの場面とか嫌で、「こんなシーンがあったのか!」というところにスポットを当てたい。人と同じことをしたらアカン、という固定観念があるんですよね、研究者の性で(笑)。1949年奈良県生まれ神戸大学経営学部卒業米国ロチェスター大学 Ph.D,神戸大学博士神戸大学名誉教授出でい井 文ふみお男1953年兵庫県生まれ神戸大学経営学部卒業神戸大学博士神戸大学名誉教授僕のブログの「晴走雨刻」得とくつ津 一いちろう郎80
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