KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2022年2月号
37/128

自分の映画表現力の無さからだが、力添えになってボクを引っぱってくれたのは、まだ30歳代そこそこのフランシス・F・コッポラやウィリアム・フリードキン監督のニューシネマ群に尽きる。『ゴッドファーザー』(72年)や『フレンチ・コネクション』(72年)は勿論のこと、ポパイ刑事ことジーン・ハックマンが今度はコッポラによって孤独な盗聴屋に変身したスリル満点の『カンバセーション…盗聴…』(74年)。そして、何よりゾクゾクしたフリードキンの『エクソシスト』(74年)はいずれも米国の未来の見えない混沌とそのバタ臭い風俗まで丸ごとがリアリズムで、もうそれが映画であることも忘れてしまうほど、映画の真価とはこういうものかと思わせてくれたのだ。そんな中、公開を待ちに待っていたのが、『フレンチ・コネクション2』(75年)だ。前作のラストでニューヨーク市警のポパイ刑事が撃ち殺したか取り逃がしたか、その消息が不明だったフランス麻薬密売組織のボス、髭のシャルニエが実はフランスに逃れていて、ポパイがマルセイユに単身赴任して追い詰める話だという噂が立っていた。予告篇には巡り合えなかったが、人間不信になってサックスを吹いてその日暮らしをする盗聴屋のジーン・ハックマンが、またあの黒いポークパイ・ハットを小粋に被ったタフな刑事になって戻ってくるのが嬉しかった。ポパイが実際に生きてるようだった。しかも、監督が『グラン・プリ』(67年)でF1ドライバーの哲学を教えてくれた鬼才ジョン・フランケンハイマーと聞いては、絶対に見ないことには人生が前に進まなかった。ポパイと悪党シャルニエの対決を見届け、ボクも自作を作る意欲を貰いたかった。映画はボクの生活の息継ぎだった。ポパイがマルセイユに来たのを察知したシャルニエは手下に彼を捕まえさせて、彼を麻薬漬けにして中毒患者にしてしまう。ここまでサスペンスフルな展開とは思わなかった。シャルニエ役のフェルナンド・レイは巨匠L・ブニュエル作品の常連で悪党役が巧い。でも、ハックマンが禁断症状と戦うさまははるかに凄かった。これぞ、リアリズムだ。後年、最後にポパイがシャルニエを追い詰めた場面が撮られたマルセイユ港の桟橋に、旅番組ロケで行った時、パイハットを被ってポパイの気分で立ってみた。麻薬を米国中にばら撒いて、地中海を見ながらワイン片手に女と戯れるような麻薬王は許せないと銃を構えたポパイの気分に、ボクもなれて嬉しかった。そして、彼が麻薬中毒から立ち直って、港で食べた二色アイスクリームの味も想像してみた。こんな人間らしい刑事映画は今は見かけない。今月の映画『カンバセーション…盗聴…』(1974年)『フレンチ・コネクション 2』(1975年)37

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る