合を大阪の場末の映画館に頼んで試写させてもらい、皆で大きな銀色のスクリーンで見て呆然となったのを思い出す。こんな画面にスリルなんかどこにあるんや?何が緊張するサスペンスなんや?この次に誰がどうなるなんてとっくの前から知ってるぞ、だったら早くそれを見せろ、何をチンタラしてるんや、こいつの芝居もあいつの下手な台詞回しも、あー見てられんわ、聞いてられんわ…。皆で作って、皆で落胆して、スリリング。サスペンス。リアリズム。差し迫るぞくぞく感と写実。これらは映画に真っ先に求められることだろう。ボクが23歳の時、初めて35ミリフィルムを使って自分で映画のようなものを撮って思い知ったことだ。1975年、公開中だった五木寛之の原作で九州筑豊の炭鉱町が舞台の同名映画『青春の門』の題名だけ真似て、『性春の悶々』というチンケなピンク映画を高校の同級生仲間で作って、その仕上がり具皆で思い知って、そのプリント試写に皆でただ耐えていた。しかも、台詞や仕草を指図したのは自分だ。その技量のなさに恥ずかしく身体中から脂汗が出て、人生で最も自分が最低に思えた。でも、その時、ボクは映画作家になるのを諦める気はなかった。自作の“映画もどき”にスリルとサスペンスとリアル感がないと分かったんだし、だったら、しっかり学ぼうと肚を括ったのだった。生きる目標を見つけたのは井筒 和幸映画を かんがえるvol.11PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。36
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