KOBECCO(月刊 神戸っ子)2022年1月号
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品100点とが〝競作〟のようにして並べられている。壁面に展示されたマティスの絵画作品の前の棚には、日比野さんが磁器の産地で知られるフランスのリモージュで制作した陶芸作品50点が並ぶ。まさに、時空を超えた絵画と立体の贅沢な競演だ。「パリで個展を開いていたとき。大学教授が、『リモージュへ来て陶芸作品を作ってほしい。その創作過程を陶芸を学ぶリモージュの芸大生たちにも見せてほしい』と招待されたんです。作品を100個制作し、その半分の50個は日本へ持ち帰っていいが、半分の50個はリモージュの大学へ置いていってほしい…。それが制作の条件でした」と日比野さんは説明する。今から26年前。1996年、リモージュの工房でリモージュ焼に取り組んだ。そのとき、日本に持ち帰った自身の50作品と、美術館が所蔵するマティス作品とのコラボについて、「この展示室で、憧れのマティスと私が出会う…。かつてない面白い試みですね」と感慨深げに語る。というのもマティスは小学3年の頃からの憧れの存在だった。「小学生の頃、病弱で学校へ通えない時期がありました。そんな頃。病院のベッドの上で夢中で見ていたのがマティスの画集でした。マティスの絵が空想の世界へと誘ってくれたんです」ただ、眺めるだけで終わらせないのが、〝日比野アート〟の醍醐味だ。「耳と足」のコーナーの前で、日比野さんが自ら実演しながら、この企画内容を説明してくれた。「この床に並べている私の絵画にはすべてキャスターがついています。来館者は、好きな作品を選び、このリード(ひも)を作品に引っかけて一緒に連れて歩き、美術館を鑑賞するんです」。リードを引っ張る姿は、まるで犬の散歩のようでもある。「視覚、触覚を表す『目と手』は、人間の重要な感覚としてよく使われますが、『耳と足』はあまり使われないでしょう。でも、人にとってこの二つはとても大切な感覚です。それを身体表現としてとらえるために考えた企画。聴覚で空間をとらえ、足で歩く…。来館者にアートを見るだけでなく体感してほしいと思っています」展示室の壁も抜け出し…デビュー以来、「創作の照準」は国内にとどまらず常に海外へも向けられてきた。シドニー・ビエンナーレ、ヴェネ22

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