KOBECCO(月刊 神戸っ子)2022年1月号
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ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋「飛ばないか、何か動物が見れるかもしれないぞ」風の穏やかな冬のある日。友人のリーが、趣味で所有している小型飛行機で、空の散歩に誘ってくれた。彼の愛機はエアロンカ社の通称「チャンプ」。1950年には製造が終了したビンテージだ。窓が大きく、タンデム複座の後部でも景色がよく見えるので、自然観察にはもってこいである。燃料満タンで約2時間のフライトが可能となる。休憩と給油を挟みながら、その日3度目の飛行となった。夕暮れも近くなってきたその時、遠くの湖面に黒い点がうごめくのが見えた。「11時の方角!」。目標に近づくにつれ、それがオオカミの群れだとわかった。1、2、3…全部で13頭。色も白から黒まで様々だ。凍った湖面を一列になって進んでゆく。これから狩りに行くところだろうか。刺激しすぎないよう一定の高度を保ちながら撮影を開始。こちらに気づいて見上げる個体もいたが、嫌がって逃げるほどでもない。窓の隙間から超望遠レンズを出すと、激しい振動にフレーミングもままならない。1/4000秒という高速シャッターを切ってなんとかブレを防いだ。「そろそろ時間切れだ」。群れの上空を何度か旋回してもらった後、燃料が底をつく前に町へと進路を変えた。窓の外には地平線の彼方にまで森と湖が続いていた。朝と変わらない風景だが、今は違って見える。この中で、オオカミの群れはなんと小さな点の集まりに過ぎなかったことだろう。彼らが生きていくのに必要な世界の広がりを初めて理解できた気がした。オオカミの群れVol.30写真家 大竹英洋 (神戸市在住)1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。ノースウッズへの初めての旅を綴った『そして、ぼくは旅に出た。』で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』で第40回土門拳賞受賞。写真絵本に『ノースウッズの森で』、『春をさがして カヌーの旅』、『もりはみている』(全て福音館書店)がある14

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