KOBECCO(月刊 神戸っ子)2022年1月号
119/132

いわゆる「開湯伝説」というんでしょうか、鳥獣が温泉発見の手がかりだったというこの手の話は実は有馬だけじゃなくて、日本津々浦々の温泉地にあるんですね。で、その動物をちょっと整理してみると面白い。まずサギ。オレオレじゃないですよ、鷺ね。これは下呂、和倉、山中、道後など有名な温泉地に多い。白鷺とかイメージが良いからでしょうか。ほかにも山形の上かみのやま山と温あつみ海が鶴、新潟の岩室は雁、岩手の鶯おうしゅく宿は文字通り鶯、そうそう、城崎はコウノトリ。鳥類だけなく、長野の鹿かけゆ教湯なんて鹿が教えた湯と書き、島根の温ゆのつ泉津はたぬき、山口の湯田はきつねと、身近な哺乳類もいるんです。で、有馬は烏。鷺や鶴と比べて地味で、たぬきやきつねと同じように人間との距離が近い。一方で烏は古来、吉兆を示す鳥であったそうで、八やたがらす咫烏は素スサノオノミコト戔嗚尊のお仕えですし、神様と深い繋がりがあるという面も持ち合わせております。つまり身近でありながら、神聖。そんなアンビバレントな感じって、人々を魅了しちゃいますよね、ツンデレ女子が男子たちのハートを掴んじゃうようにね。もしかしたら有馬のそんな側面を、伝説で烏というキャラに投影させたのかもしれません。そして発見した神様も錚々たるメンツで、大己貴命はご存じ、大黒天さま。出雲神社のご祭神で、医療やまじないの法を定めた神とされております。一方の少彦名命は大己貴命に協力して国づくりをおこなった神様で、大阪・道どしょう修町の少彦名神社は日本医薬総鎮守でございます。つまり、医を司る神々が見つけた湯ですから、いかにも体に良さそうじゃないですか。そんな伝説に彩られた有馬へはその後、険しい山道をものともせず、多くの人たちがはるばるやって来るようになります。烏に縁があるだけに、わざわざクロウしても入る価値があったんでしょうな。119

元のページ  ../index.html#119

このブックを見る