だが年譜はこんな辛い話ばかりではない。文人仲間の出版記念会に出席したり、ご自分の詩集が賞を受けたり、講演依頼があったりと文化面の活動とが交互に織りなすように記されている。わたしなら、このような厳しい生活の中で、そんな悠長なことはとてもできないだろう。だがしかし、杉山氏にとってはそれこそが、生きる縁よすがだったのかもしれない。いやきっとそうだったのだ。中にはこんな箇所も。昭和四十二年(一九六七年)五十三歳十一月二十六日、タバコやめる。昭和四十三年(一九六八年)五十四歳十一月六日、今度こそ本当にタバコやめる。平成四年(一九九二年)七十八歳八月三日、眼鏡、太ぶち重く、古くさいので、細ぶちに取替える。ふつう、こんなことを、自分の著書の年譜に載せませんよね。そこを敢えて記すユーモア心も杉山氏はお持ちなのだ。実直そのものの生前の姿を想像しながら読むと、あたたかい人肌に触れたようで、わたしはうれしくなってしまう。そして、最後の記述。平成九年(一九九七年)八十三歳一月十三日、神田パンセにて、アートエイド・神戸主催講演会にてスピーチ、非日常の詩と現実の震災との矛盾衝突を話す。一月二十五日、生活と文学の会で「小野十三郎、人と文学」を話す。いかにも文人の、至極ふつうの記述で結ばれている。このあとも杉山氏は九十七歳で急逝されるまで現役で詩を書き続けられたのだった。(実寸タテ19㎝ × ヨコ5・5㎝)■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。103
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