KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年12月号
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の世界との遭遇だった。今でこそターザンは流行らないが、僕の世代の人間にとってターザンはヒーローであった。中でも12本の映画でターザンを演じたジョニー・ワイズミュラーは、圧倒的な人気を誇った。ところが、第二次世界大戦をはさんで、終戦の1945年までは洋画は輸入されなくなったためにターザン映画を観ることがなくなってしまった。とにかく子どもの間ではターザン人気は物凄く、終戦と同時に山川惣治の「少年王者」、横井福次郎の「冒険ターザン」、手塚治虫の「ジャングル大帝」、SF絵物語の小松崎茂も山川惣治の「少年王者」に対抗して、ターザン絵物語を描き始めた。小説では、南洋一郎が神戸で始まって 神戸で終る ㉒が登場するようになった。僕がターザン映画を初めて観たのは、まだ3〜4歳の頃だったと思う。記憶の中に「鉄腕ターザン」という題名が微かにあるが、まさか3〜4歳でこのような題名を記憶したわけではなく、後に印象づけられたものと思われる。かろうじて思い出すのは、密林の中を次から次へと綱渡りしていくターザンとチンパンジーの顔のクローズアップである。この映画を観た劇場は芝居も上演していたので、座席は升席になっていて花道があった。その花道に立って客席に向かって、僕は大きい声でターザンの雄叫びを真似した記憶がある。初めて見る密林や物語は、子どもにとっては驚異の未知第6回展は「横尾探検隊LOST IN YOKOO JUNGLE」と題して、阪神・淡路大震災20年展(2014年4月12日〜6月29日)が開催された。「探検」をキーワードに僕の幼少期の体験や中学時代の読書や映画体験が制作に与えた影響を、書籍やアーカイブ資料を交えて紹介する展覧会になった。僕にとって探検というか、冒険は、幼少期に観たアメリカ映画「ターザン」が全てであった。その後、中学になって出会った南洋一郎の「新ターザン物語・バルーバの冒険」シリーズの本からの影響も非常に強く、特に画家に転向して以後の絵画のモチーフに度々、ターザンやバルーバTadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:山田 ミユキ18

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