KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年12月号
16/53

ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋どんよりとした空の下、北西風が寒気を運んでくるようになった。大気に満ちる冬の気配を察した水鳥たちが、隊列を組み、互いに励まし合うような声を上げて南へ去って行く。空高くの点にしか見えないV字の群れも、耳をすませば、その声に違いがある。グワーッ、グワーッと喉から絞り出すような声はハクガンやカナダガンの群れ。クルルルルッーと軽やかで巻舌のような鳴き声はカナダヅル。そして、プァー、プァーと低く伸びるラッパの音の正体は、その名もトランペッター・スワン。和名でナキハクチョウである。ナキハクチョウは北米で最大の水鳥だ。翼長は時に2メートルを超え、オスの体重は平均で12キログラムにもなる。水面から飛び立つのにおよそ100メートルが必要で、羽ばたくだけでは揚力が足らず、水かきで水面を連続で蹴り続け、パタパタパタパタッ‥とプロペラのように激しく音を立てながらようやく重い体で宙へと浮かび上がる。やはりその大きさと見た目の美しさから、毛皮を求めてやってきた西洋人の手によって17世紀から乱獲が始まった。肉は食料となり、優雅な羽は帽子飾りに、長い風切羽は羽ペンの材料に、そして非常に滑らかで柔らかい皮は、化粧のためのスポンジパフの原料として重宝されたのである。20世紀初頭には絶滅の危機に瀕していたが、幸い手厚い保護の結果、現在その数は急速に回復している。今も絶滅危惧種であるアメリカシロヅルが毎年ヒナを1〜2羽しか育てないのと異なり、ナキハクチョウは平均で4個から6個、多い時には10個以上の卵を生むので回復力に差があったようだ。鳴り響く冬の知らせVol.29写真家 大竹英洋 (神戸市在住)1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。『そして、ぼくは旅に出た。』で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』で第40回土門拳賞受賞。2021年10月6日より12月22日まで土門拳記念館(山形県酒田市)にて受賞作品展を開催。最新刊に写真絵本『もりはみている』(福音館書店)がある。16

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る