KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年11月号
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この水はもともと海水ですが、それが地下で濃縮される訳ですから海水より濃い塩分濃度になり、プレート表面には貝殻や微生物の死骸などいっぱいあるので炭素が多く、炭酸がいっぱい取り込まれます。さらに、10%くらい鉄が含まれる玄武岩からも高温環境下で鉄分がいっぱい溶け出します。高濃度の塩分、炭酸、鉄分─まさに金泉の泉質ですよね。そう、金泉は沈み込んだプレートと直結した温泉なんです。一方の銀泉はどのようにできるのでしょう?地下から水が煮上がる途中で圧力が下がると、炭素ガスが抜けていきます。炭酸ガスは軽いので上に上がっていきますが、それが地下水と反応し温泉ができます。それがまさに銀泉や宝塚、灘の炭酸温泉です。つまり、有馬の湯はもともと金泉で、二次的に銀泉がつくり出されているのです。災害とトレードオフの関係ではなぜ、プレートに直結した温泉が有馬に涌出するのでしょう?それはまさに、有馬高槻構造線とよばれる大きな断層が走っているからです。結構深いところまで、おそらく地下10㎞くらいまで届いていますが、断層があると水が通りやすくなります。つまり、有馬は世界に類を見ない熱いプレートの上に断層があるため、高温の温泉が地上に上がってくるのです。一方で、有馬高槻構造線はおととしの大阪北部地震との関連が指摘されていますし、有馬でも1596年の慶長伏見大地震で大被害を受けています。つまり、有馬温泉は地震が起きるからこその温泉でもあるのです。もっと大きな視点でみてみましょう。近畿はやたらと断層が多いし、大きな地震もよく起きるところです。これはまさにフィリピン海プレートが入り込んでいるからです。一方でフィリピン海プレートは有馬温泉のほかにも、さまざまな恵みを我々に与えてくれます。例えば瀬戸内海は明石の鯛や播磨灘のあなごなど、海の幸が豊かですよね。これもフィリピン海プレートに関係があります。プレートが斜めに入ることで、潮流が速い「瀬戸」と穏やかな「灘」が連続する特異な形の瀬戸内海が生まれ、500種類くらい多種多様な魚が住む世界的にも豊饒な海になったのです。日本列島は地球上でもプ84

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