KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年11月号
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―今江祥智さんとの思い出の一冊は?印象に残っているのは、『あのこ』の復刊です。戦時中の疎開地の村を舞台に、少女と少年との出会いと別れを綴った傑作です。絵を担当した宇野亞喜良さんの提案で、印刷データを反転させ、黒い紙に白いインクで2度刷りしてイラストの黒い線を出し、幻想的な仕上がりにしました。「素敵だね」というお言葉をいただき、今江さんの誕生日に合わせて刊行したのですが、その2ヶ月後に帰らぬ人となられました。BL出版の活動を長年盛り上げてくださっただけでなく、営業で、編集で、幾度となく悩んだり壁に突き当たったときに何度も背中を押してくださったのが、今江祥智さんでした。今江さんとのお付き合いがなければ今の私はなかったと思っています。―新しい作品や作家さんはどのように発掘されるのですか。1994年からボローニャ国際児童図書展に行っています。世界約70カ国、1300社の児童書の関係者が集まり、世界の出版社や作家の方々と直接交流することができる貴重な機会です。事前に出版社とアポイントを取って打ち合わせをするのですが、1社30分で、3日間で約40社も回ると足が棒のようになります。コロナ禍もあって、今年からオンラインでミーティングができるようになりました。気になる作家さ世代や国を超えて愛される美しい絵本を。んの新刊や新しい作家さんとの出会いの多くがそこにあります。―翻訳本の編集の難しさはどこにありますか。洋書を見たときに、絵やバランスを見て、どなたに翻訳してもらうかはすごく意識します。翻訳者選びは、語学力よりも原作の世界をいかに日本語にしてもらうかにつきると思います。作家のこだわりをどこまで忠実に再現するかと悩んだ作品もあります。ロン・ブルックスさんの「FOX」(日本語のタイトル『キツネ』)を読んだとき、「この作品は、文字も絵なんだ!」と気づかされました。重めのストーリーでしたし、写植文字にはしたくなくて、原作のイメージのまま文字を描いてくださる作家さんをと、絵本作家の川端誠さんに依頼しました。川端さんは当時右手では絵が描けなくなっておられて、左手で割り箸を使って描いてくれました。ブルックスさんも大変喜んでくださいました。ボローニャ国際児童図書展にて35

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