ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋大学時代に沢登りをはじめた時から、山中での一番の楽しみは焚き火だった。釣ったばかりのイワナを枝に刺して炙ればなお最高だが、たとえ釣りができなかった夜でも、絶えず揺らめく真っ赤な炎を前に座っていると、時間を忘れて見入ったものである。ノースウッズのカヌーの旅でも、焚き火は欠かせない。一泊ぐらいなら、落ちている枝を拾い集めれば十分だろう。しかし、同じ場所に連泊したり、煮炊きにも使うとなると、それなりの薪がいる。この森はマツやトウヒなどの針葉樹が多く、土壌が薄いのであまり太く育たない。でも、針葉樹は真っ直ぐに伸び、枝も払いやすい。あまり太くない方が携帯用ノコギリで簡単に切れるので、かえって好都合だ。薪にする木は立ち枯れや、他の木に寄りかかった枯れ木が最適だ。地面に横たわると内部が腐り、長時間安定して燃えてくれない。テントの周りを見渡せば、そんな枯れ木はすぐに見つかる。良い薪を選ぶには嗅覚も使う。オノで幹を少し削って、匂いを嗅ぐのである。枯れたばかりで水分を含むものは樹液の匂いが強いが、乾いた幹は独特の香ばしさがある。ノコギリで好みの長さに切り、オノで割る。上質の薪は切る時も割る時も、心地の良い澄んだ音がする。太陽の光を浴びて育ってきた森の木々。枯れた後でも、火をつけると、蓄えたエネルギーが放出され、寒さでこわばった体を芯から温めてくれる。焚き火の炎は、森の木がくれる最後の贈り物のような気がしてならない。最後の贈り物Vol.28写真家 大竹英洋 (神戸市在住)1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)で第40回土門拳賞受賞。<スライドトーク開催!主催:全日本写真連盟 後援:朝日新聞社>■東京会場:12月18日(土)朝日新聞東京本社(築地)■大阪会場:12月19日(日)朝日新聞大阪本社(中之島) 詳細・お問合わせ:全日本写真連盟関西本部のHPまで16
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