KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年11月号
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初秋、垂水で創業して70年になる塩干・乾物の『山下商店』が閉店すると聞いた。半信半疑で訪問すると「残念ですが今年の12月30日で終わります」と言われ噂が確信に変わった。以前に本誌でも紹介した名物の「紅鮭」は多くの著名人にも愛され、我が家でも4世代に渡り食卓に並ぶ逸品である。聞けば駅周辺の再開発が進み高層ビル化が決定。それに伴い店舗を構える『垂水廉売市場』(垂水区神田町)が近く解体されると言う。この近辺には、かつて祖父母の家があった。買い物へ出掛けると店主の活気ある掛け声と行き交う人々の熱気に心が躍った。帰り際、仄かに懐かしい香りがする市場を散策した。入り組んだ路地には最盛期の面影残す青鈍色のシャッターが軒を連ねる。それらをしっかりと目に焼き付け記憶のアルバムにそっと収めた。海岸街からノスタルジックな景色がまた一つ消えようとしている。だが、この地での思い出は色あせることなく私の中で生き続ける。次なる故郷の歴史もしっかり見守っていきたい。第九十五回嗚呼、我が心のふるさと『垂水廉売市場』神戸のカクシボタンkakushi button写真/文 岡 力童心に帰り迷路のような市場を散策山下商店の皆さまと記念撮影約90年の歴史を誇る庶民の台所■岡力(おか りき)コラムニスト・放送作家ふるさとが神戸市垂水区。関西の大衆文化をテーマとした執筆・テレビ、ラジオ番組を企画。連載「のぞき見雑記帳」(大阪日日新聞)「あての履歴書」(大阪スポーツ)109

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