KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年10月号
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感じる間もなくカットが短か過ぎて、下手をすれば、どこの国の話かも分からない。ストーリーを追うだけの動画が多い。何千万ドルも制作費をかけて勿体ないなと思う。まあ、どこの何町でもいいミステリーやゾンビドラマは街の風情などに拘っている場合じゃないのだろうが。70年代のアメリカン・ニューシネマは間違いなくアメリカの光も影も素直に切り取っていた。画面に飾りがなくて、風景の1970年代に公開されたアメリカ映画を今、暇さえあれば見直している。どれもこれも、当たり前のことだが愉しい。俳優もくせ者揃いだし、アクションで売る映画でさえ、場面、場面には詩情があった。ワンカットが散文詩の一行のようなのが改めてわかる。昨今のハリウッドの娯楽作は1カットが劇画の1コマだから、風情なんて求めようがない。この画面は西部の閉塞感(解放感でもいいけれど)が出てるなぁなんて表情に味があったし、その地に実際に訪れたようだった。カリフォルニア南部に広がる石油採掘場の風景から始まる『ファイブ・イージー・ピーセス』(71年)も、べトナム戦争で疲弊したアメリカのくたびれた時代色が出ていた。主人公は、油田で日雇い労働をしてその日暮らしをする男。下積みの長かった33歳のジャック・ニコルソンが日焼け顔で演じ、油まみれのヘルメットが似合っていた。労働に疲れて帰井筒 和幸映画を かんがえるvol.07PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』全国順次拡大公開中!40

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