KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年9月号
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品へも波及しながら意図的に最初から同一作品を2点、3点と制作と同時進行で発展していった。グレコの「受胎告知」の一点は大原美術館に所蔵されているが他にもう2点あって、別々の美術館に所蔵されている。キリコの「不安を与えるミューズたち」と題する作品は数多く制作されていて、こちらも世界各地に散在している。同一の反復作品が空間を超えて、お互いに感応しあっている光景を想像する時、僕は美術作品の神秘性に魅了されてきた。このような不思議というか奇蹟的な運命によって呼応し合っている反復作品を次々制作するその行為は一種のコンセプチュアルでもあるが、僕はそれ以前に反復行為の遊戯性に魅神戸で始まって 神戸で終る ⑲に流出していて行方不明のために、再制作することになった。幸い写真の資料があったために自作の模写をすることにした。この時点まで反復意識は全くなかった。寸分違わぬ同じ作品が2点出来たことに僕は不思議な感動を覚えた。と同時に同一作品を複数化することに新境地を開拓する一種のアバンギャルド精神が僕の中で発酵するのを感じた。過去の絵画歴史を見渡すと、エル・グレコ、ジョルジュ・デ・キリコ、クロード・モネ、ジャスパー・ジョーンズ、アンディ・ウォーホルらがすでに反復の先鞭をつけていることに気づいた。反復への関心は僕の中で、どんどん発展し始め、例の「ピンクガールシリーズ」に留まらず、「Y字路」へも侵略し、他の作2012年11月3日。横尾忠則現代美術館のコケラ落とし展は「反反復復反復」展と題したまるで暗号のようなタイトルの展覧会名だ。オープニング展ということもあって、強烈な印象を植えつけたかった。僕の作品の特徴として、過去に制作した作品を時間を経て同一モチーフと形態を利用して反復するという傾向の作品をしばしば制作してきた。例えば初めて絵画作品を描いた1966年の「ピンクガールシリーズ」を36年後に反復するという実験が反復作品の出発であった。反復の切っ掛けは2002年に東京都現代美術館で「森羅万象」展が開催された時、「ピンクガールシリーズ」を展示することになったが、そのシリーズの中の2点が海外Tadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:山田 ミユキ18

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