KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年9月号
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ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋「まるでアラビアン・ナイトのような光景が、この北国にもあるんだ。見渡す限り続く砂の丘、その周りを囲んでいるのが針葉樹の森だなんて信じられるかい…?」マニトバ州在住の友人の写真家と「いつか行ってみたい場所」という話題で盛り上がった時に聞いた言葉だ。その場所の名はアサバスカ砂丘州立公園。サスカチュワン州の北の果てに位置する、世界最北の砂丘の一つだという。実際にその地へ足を踏み入れる機会が、2010年夏に訪れた。ノースウッズを紹介する自然番組を作ることになったとき、ダメもとで提案したら通ったのだ。しかし、世界でもここにしか存在しない植物の固有種がいくつも見つかっているほど隔絶された土地。行くのは簡単ではない。州立公園とは言っても、観光客を受け入れるビジターセンターどころか、常駐するレンジャーすらいない、単なる地図上の保護区分に過ぎないのだ。水上飛行機をチャーターして直線距離にして約180キロ。誰も住まない原野を延々と飛んだ先に砂丘が現れる。しかし、空から見るだけでなく、実際に自分の足で歩いてみるのが、旅の目的だった。小さな湖に着水すると、キャンプ道具とカヌーを担いで、海のように広いアサバスカ湖へ。目指すのは砂丘の真ん中を流れるウィリアム川。河口付近で野営し、翌日に川を遡る。砂底が浅くなり、ロープでカヌーを引っ張りながら丸一日…ようやく目標地点に辿り着いた。高さ30メートルの砂の壁が水際にまで迫る核心部だ。水と砂と森が織りなす見たこともない光景を前に、別の惑星に降り立ったような気がした。世界最北の砂丘Vol.26写真家 大竹英洋 (神戸市在住)1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。『そして、ぼくは旅に出た。』(あすなろ書房)で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)で第40回土門拳賞受賞。現在NHKオンデマンドにて、出演した自然番組ワイルドライフ『カナダ ノースウッズ 命あふれる原生林を行く』を配信中。16

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