KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年7月号
95/124

■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。けだ。その「天秤」の創刊号をこのほどわたしに提供してくださる人があった。明石の詩人、渡辺信雄さんである。神戸の詩の歴史の貴重な一冊であろう。「亡くなられた伊勢田史郎さんの大量の本の中から出てきたものです。思い入れのある今村さんに託したいと思いました」と。わたしが足立巻一先生と宮崎修二朗先生を尊敬しているのをご存じなので。渡辺さんは、親密にしておられた伊勢田さんがお亡くなりになった時、書斎の整理に入られたのだった。伊勢田さんならわたしにも縁がある。お会いした時はいつも未熟なわたしを励ましてくださる人だった。また、33年間にわたって営んできたわたしの店の名、「輪」は、伊勢田さんが参加しておられた詩誌「輪」をヒントに名づけたもの。さらに阪神・淡路大震災の時には、その直後に電話してきて下さり、安否を尋ねてくださった。ご自分の家の方が大変な中でのこと。ほかにもいろいろと思い出がある伊勢田さんのところから出たものということで縁は巡るを感じる。その創刊号(昭和三十三年十月一日発行)、わたしが所持しているものとは体裁が大きく違っている。大きさはB5で同じだが、たった一枚の紙が三つに折られて六ページ仕立て。一見粗末である。しかしこの大きさで三つ折りとは見たことがない。しゃれているのだ。詩作品を載せている同人は、米田透、田部信、静文夫、足立巻一、正木利雄、亜騎保の六人のみ。そしてカット絵を津高和一。足立先生の「やちまた」の連載も宮崎先生の「ある俘囚の記録」もまだ始まってはいない。さて田辺聖子さんの手に渡った藤村の軸だが、「ぼくがある詩人から戴いたものでした」と宮崎翁。その詩人の名前はわたしにも教えてはくださらなかった。「わたしが死んだら形見にもらってください、と言っておられたのです」ものに頓着しない翁だが、その軸はきっと大切になさっていたものだったのだろう。(実寸タテ17㎝ × ヨコ8.5㎝)95

元のページ  ../index.html#95

このブックを見る