KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年7月号
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映研仲間と喫茶店に寄って、初めて知ったスタンリー・キューブリック監督の名前に首をひねりながら唸っていると、店のテレビにはフランスのパリ、カルチエ・ラタン地区で大勢の学生や労働者がデモをして警官隊ともみ合い、車を転覆させて火をつけ、通りを占拠するニュースが映っていた。と、仲間が「何十年先の宇宙旅行より、今こそ革命闘争やろ、べトナム戦争反対、アメリカもフランス帝国主義もぶち壊せや、ゼネボクが高校生だった1960年代後半は確かに、古い価値観から新しさへの変革期だと世界中でいわれてきたが、見ること聞くこと自体が初めてのことばかりの少年には、世界中のどんな「今日の出来事」にもただただ興奮するばかりだった。68年の5月、学校帰りに『2001年宇宙の旅』(68年)という最後まで意味不明な謎の黒い板が現れる、訳の分からないSF大作を観た後、ストや、学生も自由平等やフリーセックスや。うちの3年生は受験しか頭にないしおとなしいけどな」と急に声を弾ませて気色ばむので、宇宙の哲学など何処へやら、パリの大騒乱の画面に興奮した。ボクも、長髪を認めろ!何が伝統だ、学歴偏重教育は止めろ!ガリ勉生は出ていけ!と学校に何か抗えるものはないかと思ったが、それ以上のお題目は思いつかなかった。その後日、カンヌ映画祭もヌーベルバーグの監督井筒 和幸映画を かんがえるvol.04PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』全国順次拡大公開中!50

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