KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年7月号
43/124

かも聞こえるかもしれないし、他にも雑音が入るかもしれません。でも多くの人とひとつの場所で、同じ音楽を聴くことは、何にも代えられない、素晴らしい体験だと思っています。YouTubeを見て、演奏会に行きたいな、と思ってもらえたら、僕はとっても幸せです。*1 2020年春、PACメンバーが自宅で演奏した動画に合わせ、楽器、歌、ハミング、ダンスなどで参加した動画を投稿してもらい作成したYouTube動画。*2 2020年12月、師走の風物詩「サントリー1万人の第九」は無観客開催となり、市民1万人の合唱は事前投稿された動画での参加となった。YouTubeやSNSを使って、日本だけでなく、世界に発信できますね。「HPACすみれの花咲く頃プロジェクト」もそうですし、「サントリー1万人の第九」(*2)も多くの方がみてくださり、感激しました。この時代だからこそ得られた喜びです。でもね、数にしたら小さいけれど、もっと身近な場所でも大きな喜びがあったんですよ。芸文センターの前に、昨年横断幕を張ったんです。「みなさんにホールでお会いできる日を心待ちにしています」って、僕からのメッセージを入れてね。同じくポスターも作って、商店街や商業施設に貼ってもらいました。いつも応援してくれている街の人たちに気持ちを伝えたかったから。歩いている人が、ふと目にする場所を選んで貼ってくれたんですね。その効果がすごくあって、「見たよ」「元気が出たよ」と、街の中で前向きな言葉を直接かけてもらったんです。それはもう本当に嬉しかったなぁ。人が人と顔を合わせる、直接言葉を交わすことが、人間にとってどれだけ大切なことか、思い知らされた出来事でした。やはり「ホールで会える」ことが一番の願いですね。もちろん!劇場に足を運んで、僕たちの演奏を劇場で聴いてほしいです。ミスをするかもしれない、他人の咳払いなん佐渡 裕(さど ゆたか)1961年京都市生まれ。京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。2015年9月より、110年以上の歴史を持つトーンキュンストラー管弦楽団(オーストリア)音楽監督に就任。欧州の拠点をウィーンに置き、パリ管弦楽団、ベルリン・ドイツ交響楽団など、欧州の一流オーケストラに多数客演を重ねている。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラの首席指揮者を兼務。著書「僕はいかにして指揮者になったのか」(新潮文庫)、「僕が大人になったら」(PHP文庫)、「棒を振る人生~指揮者は時間を彫刻する~」(PHP新書)などphoto. 兵庫県立芸術文化センター提供43

元のページ  ../index.html#43

このブックを見る