KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年7月号
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定したおかしな挨拶をしてしまった。それにしても、こんな奇遇な出来ごとが現実に起こったのである。今も当時のアパートは存在しているが、もし、あの住まいだった部屋から、この建物を見たら、見えるのではないのかと思う。この偶然を僕は奇蹟だと思う。新婚当時の同じ地域に引き寄せられたこのエネルギーとは一体何なんだろうと思うばかりだ。このエッセイのタイトルが、「神戸で始まって神戸で終る」というのは以上のような運命的な引き寄せがあって初めて成立する物語である。本当にて、豪華なセレモニーが行われた。僕はなんだか足が地につかず、身体が宙に浮いた状態で、夢と現実の間を浮遊しているように思えた。王子動物園の前の道をはさんだところに完成した美術館は、実はかつて新婚時代に住んでいた青谷のアパートから徒歩で20分もしない場所に出来たのである。まるでシャケが自分の生地に戻ってきた気分でセレモニーの挨拶に「僕はまるでシャケになったような気分です」と語り、その一方で、「この白い建物は僕の墓石でもあります」と生誕の地と墓地を想ために、一緒に展覧会を実行させていくことができず残念であった。そんな経緯を経て、蓑さんとは再び、深いつき合いが始まった。そして、いよいよ2012年に「横尾忠則現代美術館」が開館した。井戸知事さんと面会して6年目に、開館のオープニング祝賀式で、久し振りにお会いした。ちょっと口では表し得ない感動の一瞬であった。当日は東京から美術関係者も沢山来席され、セレモニーのステージにはゲストとして瀬戸内寂聴さん、三宅一生さん、安藤忠雄さんの三人の出席を得三宅一生さん安藤忠雄さん21

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