KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年7月号
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ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋かつてカヌーの師と共に長い旅をしている途中で、美しい湖と出会った。点在する大小様々な島は、苔や地衣類に覆われ、岩の割れ目から伸びるジャックパインはまるで盆栽のようで、どこを見渡しても日本庭園のような厳かな佇まいだった。しかし、2006年の夏、落雷で発生した大規模な森林火災によって、その森はすっかり焼けてしまった。心が痛んだが、ジャックパインは炎の熱で松笠を開いて種を撒き、世代交代を果たすという。森林火災はノースウッズの自然にとって大切なサイクルの一つなのである。その火災から一年後、再びその湖を訪れた。日当たりのよくなった地面の至る所からジャックパインの新芽が伸び、雨水が溜るような場所には苔も戻ってきていた。自然の回復力に感嘆しながら歩く中で、特に目を引いたのは、焼け焦げた大地を覆うピンク色の鮮やかな花…ヤナギランだった。ヤナギランは英語でFireweedと呼ばれ、焼けた森で真っ先に咲く花として知られている。古い森では見かけないので、いったいこの花はどこからやってきたのだろうと、不思議に思って眺めていると、目の前を白いものが飛んでいった。綿毛に包まれたヤナギランの種子だ。また一つまた一つと、風に乗って運ばれていく。なるほど、遮るものがなく風通しがよくなった焼け野は、綿毛で遠くまで旅をするのにもってこいというわけだ。彼らのような植物が根を張ることで土壌の流出が防がれ、そこにまた苔が生えて水分を蓄え、新しい森が再生していく。風もまたこの森の一部なのだ。焼け野に吹く風Vol.24写真家 大竹英洋 (神戸市在住)1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。『そして、ぼくは旅に出た。』(あすなろ書房)で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。撮影20年の集大成となる写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)で第40回土門拳賞受賞。現在NHKオンデマンドにて、出演した自然番組ワイルドライフ『カナダ ノースウッズ 命あふれる原生林を行く』を配信中。16

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