KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年6月号
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や、トルーマン・カポーティ原作の『冷血』、カッコいいスティーブ・マックイーンの『ブリット』などはどれも新鮮だった。アメリカの乾いた空気感の中、登場人物たちは人間臭く、舞台劇風な説明口調でなく、さらりと台詞を言ってのけ、すぐさま少年の心を虜にするのだった。当時38歳のスティーブ・マックイーンは我ら映画少年少女の、いや世界のアイドルスターだった。碧眼の人懐っこい容貌とその一挙一動が一々決まって「やっぱり邦画より洋画やね。世界が分かるし、リアル感が違うな」と高校の映研部の先輩たちが得意げに話していた。だから、16歳のボクも負けてなるかと洋画を追っかけて見まくった。時代の潮流やその先端を探すことに夢中だった。確かに、その頃に見た悲壮過ぎる『連合艦隊司令長官 山本五十六』や幸せそうな加山雄三の『若大将』シリーズよりは断然、ダスティン・ホフマン主演のニューシネマ『卒業』いた。コーヒーカップを片手に薄切りトーストを頬張るだけで絵になる俳優だ。今もボクの思い出の中に生きている。彼と同時代に現れた、同い歳でライバルのクリント・イーストウッドは『荒野の用心棒』や『夕陽のガンマン』で見てはいたが、連続TVドラマの『ローハイド』の頃の優しい兄さんイメージから結びつかなかった。おまけにそれらのイタリア製西部劇はどうもわざとらしく陳腐で、ヒゲ面も無表情なだけで画面井筒 和幸映画を かんがえるvol.03PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』全国順次拡大公開中!神戸アートビレッジセンターでは、4/17〜4/30公開。40

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