ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋カヌーの旅で、小さな島の岩棚にテントを張って夜営をしていた。その日はあまりに風が強くて、どこへも行けずに風が弱まるのを待つしかなかった。自然を相手に旅をしていると、ちっぽけな人間一人の力ではどうにもならないことを知る。時には無理をせず、やり過ごすことも必要だ。時間があるので、前日に釣り上げた大きなノーザンパイク(=カワカマス)をフライにしてお腹をみたし、島を散策して苔むした森のやわらかな地面の感触を楽しんだ。風が吹いていると、蚊もいなくて快適である。やがて日が沈むと、空には雲ひとつない見事な星空が広がった。月も出て、ほんのりと地面を照らしている。風はまだあるが、徐々に治まってきているようだ。きっと明日になれば移動ができるだろう。空に瞬く無数の星たちの中で、北斗七星とカシオペア座が一際明るく輝いている。その位置から北極星はすぐに見つかった。今いるのは北緯50度だから、地平線からちょうど50度の高さにある。そしてその方角は、ほぼ地軸の真北にあたる。そのことを英語で”True North“というが、航海において進むべき方角を決めるのに重要であることから、転じて人生においても比喩的に使われる。つまり、揺るぎない指針となり、自分の立ち位置を教えてくれるものとして。あるいは、目指すべき真に重要な目標そのものとして。星空を見上げるたびに北極星を見つけることは、もはや習慣となっているが、自分なりの”True North“を見失わないようにするための儀式のようなものかもしれない。北極星を見上げてVol.23写真家 大竹英洋 (神戸市在住)1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。2021年3月、写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)で第40回土門拳賞を受賞。〈第40回土門拳賞受賞作品展〉 主催:毎日新聞社ニコンプラザ大阪 THE GALLERY 2021年6月1日(火)〜6月9日(水)10時30分〜18時30分日曜休館、最終日は15時00分まで※緊急事態宣言による変更もございますのでご注意ください。16
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