KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年5月号
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などロクに見たことがなく、その分、息子には優しかったわけだ。この年明け、『帰って来たヨッパライ』というアングラソングが街のあちこちに聞こえて大ヒット。2月にはそのフォーク・クルセダーズの新曲『イムジン河』が発売中止になっていた。ボクは高校に入ってからその事を知り、やがて『パッチギ!』のサウンドトラックに入れることになるのだが。高校受験の所為で見逃し1960年代後半、とりわけ、68年はパリ五月革命や東大安田講堂占拠や、既成の秩序に若者たちが反抗し、価値観が揺らいだ激動の時だが、ボクも、中学から高校に上がる節目の年で、週末は映画館行きの課外授業に忙しかった。母に「観たいアメリカ映画があんねん」とねだると、「勉強もせんとあかんよ」と釘をさされたが、小遣いをくれた。母の女学生時代は戦争中だったから、映画ていた映画を片っ端から探し直し、また毎週が忙しくなった。強面のリー・マービン主演の『殺しの分け前/ポイントブランク』を地元の洋画館で見つけた時は嬉しかった。前年の『特攻大作戦』(67年)以来で、このぶさいくな風貌の男優が大好きだった。殺しの分け前というサブタイトルは原題にはないし、今は余計だろうが、当時は大人も少年もそこに気がそそられたかもだ。アメリカ小説『悪党パーカー』井筒 和幸映画を かんがえるvol.02PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』全国順次拡大公開中!52

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