KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年5月号
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形成外科医は患者さんのメンタリティーをメスで治す―形成外科とは。元村 人の命を助けるのが医療の入り口だとしたら、出口で引き受けるのが形成外科です。他の診療科が「人の生死」をみるとしたら、形成外科は「人の人生」をみる。少し発想が違います。―新しい外科学なのですか。元村 そうではなく、発祥は紀元前600年ごろで、「世界最古の外科学」といわれています。ただし日本では学会としての歴史は浅く、複数の診療科が合体して開設されてきました。 大阪市立大学の場合は、皮膚科と耳鼻科の協力で1993年に国公立大学としては関西で2番目に開設され、口蓋裂や耳下腺腫瘍治療後の再建術をはじめ主に耳鼻科の領域からスタートしています。―形成外科医と美容外科医の違いは。元村 形成外科には「外傷」「腫瘍」「先天異常」「美容」という大きな4本柱があり、そこから細分化されています。私の専門は、外傷や腫瘍すなわち後天疾患後の失われた機能や外貌を修復する再建外科です。再建外科は、精神的喪失感を解除することを目的とし、患者さんがより人間らしい生活を送れるようにします。原岡 悩んでいる人をハッピーにするという根底は形成・美容とも同じですね。元村 欧米では、「精神外科医」ともいわれているんですよ。精神科医は患者さんのメンタリティーを薬で治しますが、形成外科医はメスやレーザーで治します。美容外科も手技は共通していて、目指すところも同じです。―ハッピーなゴールはどこに置くのですか。元村 本来の状態に戻し、患者さんの笑顔を取り戻すことです。例えば、悪性腫瘍を切除した後の、顔面欠損を修復する手術や、失った乳房を再建したりする手術があります。せっかく命を取り留めても、失ってしまったものがあることで辛い人生を送るのは悲しい。けがや病気を克服した後、喪失感を持つことなく、また本来の生活に戻ることがゴールです。 絵画にたとえると、キャンバスに開いた穴を補修して元の真っ白なキャンバスに戻すのが形成外科であり、真っ新で真っ白なキャンバスにクライアントの要求通りに綺麗な絵を描くのが美容外科だと考えています。したがって、形成外科と美容外科のゴールはちょっと事情が違いますね。原岡 そうですね。美容外科の場合、ゴールを決めるのは患者さんご自身ですから、そこが難しいところです。アンチエイジングの手術を終えた患者さんは笑顔で通院して来られる方が多いのですが、若い方は自分でゴールを見失っていることが少なくないように思います。そして見えないゴールを求めてさまよい続ける。大きな問題です。47

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