KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年4月号
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かサタンの爪かそこまでは覚えていない。黎明期の白黒テレビドラマから現れたヒーローは全員、正義の味方と決まっていたが、よく解らない正義を押し付けられるよりも、ボクは「敵」の方が気になった。世界が東西両陣営に分かれていた頃だが、そんなことは知らなくても、映画の中に悪党がいるのが面白かった。映画は学校で習わないことを知る授業だった。たばこ暇さえあれば、日課のように映画を見る。毎週、何か見る。見知らぬ他人の人生を追いかけるのは愉しい。異国の地を目にすると旅に行く必要もない。ボクには映画は酸素みたいなものだ。たまに炭素ガスみたいなシロモノもある。でも、息苦しくても面白ければいい。1959年の夏休みに駅裏の東映館で観た『月光仮面』が最初だ。小学一年だし、悪役がどくろ仮面だった屋の壁に貼られた、映画のポスターは絶えず見ていた。六年生の終わりの1965年、『飢餓海峡』の題名だけは記憶にあるが、怖そうな大人向け映画だったので足が向かなかった。出会ったのは5年後だ。怖いというより夢でうなされそうな、逃亡者と娼婦の凄まじい運命交錯劇だった。以来、何度も見返してきた。コメディアンの伴淳三郎が函館署の叩き上げの刑事で、三國連太郎(41歳)が井筒 和幸映画を かんがえるvol.01PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』全国順次拡大公開中!神戸アートビレッジセンターでは、4/17〜4/30公開。44

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