サイエンス系のものが多いんですが、なかでも『ながいながい骨の旅』(講談社)には思い入れがあります。これは、私たちにはなぜ骨があるのかという話ですが、まさに地球誕生の時から話し始めなくてはなりません。知識の本を作ろうと思ったわけではないんです。今、ここに、自分がいるということが、どれほどの物事とつながっているのか、どれほどかけがえのないことなのか、それを伝えたくて書きました。私たちは、水分ではなく、今も体の中に、ある形で「小さな海」を入れて持ち運んでいるんですよ。だから地上でも生きられるんです。「え?」と思いました? ね、びっくりするでしょ。それを知りたかったら、ぜひ、この絵本を読んでみて(笑)。─宮沢賢治の絵本シリーズも作られていますね。はい、もはやライフワークです。ミキハウスからすでに30冊以上の賢治シリーズを刊行しました。そのうちの一冊『雨ニモマケズ』のお話をしましょうか……。当初私はこれを絵本にする気はありませんでした。でもあの東北の震災の翌年に、津波で流された地域の子どもたちに賢治の話をしてほしいという依頼があったんです。話なんかできないと思い、彼らに手渡すプレゼントを作りました。私を励ましてくれてきた賢治の言葉を入れたファイルです。その中に私は『雨ニモマケズ』の最後の2行「ソウイウモノニ ワタシハナリタイ」と書いた紙だけを貼りました。そして「この前の言葉は、君たち一人一人に書いてほしい」と伝えました。その後に子どもたちからもらった手紙から、その意味を彼らがしっかりと受け止めてくれていることがわかった。それでようやく『雨ニモマケズ』が私の中に素直に落ちてきたんです。この絵本の絵を描いてくださった柚木沙弥郎さんは、当時93歳でした。今年で99歳。今も現役です。──ところで、最近素敵な言葉を知ったんですよ。「ヒューマン」っていう言葉があるでしょ。あれ、ラテン語が語源で、「腐葉土」という意味があるんですって。そこで私は、まどさんのことを思いました。「ぞうさん」という歌は知っていても、まどさんという名前は知らない人がたくさんいます。でもきっとまどさんはそれを悲しまないだろうなって。多くの人の腐葉土となる仕事を成し遂げられたまどさんのように、自分も少しでも、誰かにとっての「腐葉土」になるような仕事を……、そんな生き方をしようと、それがこれからの目標になりました。松田 素子(まつだ もとこ)さん1955年山口県生まれ。児童図書出版の偕成社にて『月刊MOE』の創刊メンバーとなり編集長を務めた後1989年に退社。その後はフリーランスとして活動。これまでに約300冊以上の本の誕生にかかわってきた。新人作家の育成にもつとめており、長谷川義史、はたこうしろう、ひがしちからなど、多くの絵本作家の誕生に立ち会う。自然やサイエンスの分野においても、企画編集および執筆者として活動。自著『ながいながい骨の旅』(講談社)で2019年度の児童福祉文化賞を受賞。38
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