KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年4月号
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は経済です。その力が木っ端微塵にしているもののことを考えたい。それには落ち着いて、自分の立ち位置を見つめ直したかった。石井桃子さん、瀬田貞二さんなど、絵本の世界を作った人たちの「言葉」を反芻する時間を持ちたいと思っています。気軽に出かけることも難しい今は、心の根を伸ばす時だと思って日々を過ごしています。─神戸に来られて生まれた絵本があるということですが…。そうなんです。『アネモネ戦争』という絵本です。これは神戸で知り合った「ギャラリー島田」の島田誠さんからの言葉が発端でした。最初は限定版で作ったんです。それが─これも神戸の出版社なんですが、BL出版というところから、昨年の10月に普及版として正式に出版されました。題名に戦争なんていう言葉が入っていますが、これは強く平和を願う絵本です。というか、戦争というものは、誰か悪い為政者が始めて、我々は巻き込まれる立場だということではなく、むしろ、私たち自身の無関心や、自分だけが安全だったらいいと思う気持ちこそが戦争の芽を育ててしまうんだということ、私たちこそが当事者なんだということが、淡々と描かれています。これは届けるべき作品だと私は思いました。本を出すということは、声を届けることでもあります。その声が良きものでありますようにと、祈るような気持ちで編集をしました。主語をもつ、ということ。─あちこちで絵本のワークショップもされていますね。編集者になりたてだったころ、ある人に言われたんです。「絶対に〝主語〟をなくすなよ」と。日本では特に「先生がマルをくれる答えは?」「ほかの人とずれないのはどれ?」と神経をとがらせているうちに、主語で語る力が削がれていっている気がします。というわけで、絵本作りのワークショップだけでなく、数年前から「絵本の深読み」という試みを始めました。ビブリオバトルではありません。基本的には、時を超えて読まれている絵本を選んで、その本を選んだ発表者がまず、自分なりの深読みを語る。大事なのは絵を読むこと。絵本は絵が語るメディアですからね。次にみんなが自由に、ただし主語を持って話す。どこかに書いてあったとかそういうことじゃなくて、あくまでも自分はこう思ったという言葉で話す。優劣をつけたりのバトルなどのジャッジは一切なし。なによりも、主語を取り戻してほしい、これはそのための試みなんです。『アネモネ戦争』上村亮太/作ケース入りの限定版はすぐに売り切れ、その後BL出版から刊行された。上村さんも神戸のアーティストだ。36

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