色々な場面を思い出すのですが、私が安先生と一番多く時間を過ごしたのは、多分、診察室です。その多くは、安先生が患者さんを診察するのを斜め後ろから見ている場面です。少し肩をすぼめて、背中を丸くして、うんうんとうなづきながら患者さんのお話を聞いている場面です。実際の診察は、映画のポスターのように、柔らかい光の中にいるような雰囲気モデルとなった安克昌さんの後輩として共に診療活動をしてきた、神戸大学医学部附属病院の青山慎介さんに、安さんとの思い出と、コロナ禍においての「心の傷を癒すということ」をお聞きしました。神戸大学大学院医学研究科精神医学分野 准教授 青山 慎介 さんばかりではありませんでした。患者さんの悲しみや不安、怒りや混乱が診察室にいっぱいにあふれることもしばしばでした。けれど、安先生は、心に傷を受けながらも今ここにいる患者さんを、どこまでも尊重しようとしておられた、そしてあなたは正当であるとどこまでも支持しようとしておられたのだと思います。一方で、人を傷つける不条理や、弱者を叩く人や社会の品格のなさを強く憎んでおられた。「心の傷を癒すということ」に寄せて コロナ禍の今、思うこと28
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