KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年2月号
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ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋2月末。カナダ・マニトバ州北部に位置するワパスク国立公園を訪れた。ワパスクとは先住民クリーの言葉で「白いクマ」を意味する。その名称の通り、ハドソン湾に面するこの辺り一帯はホッキョクグマの生息域であり、しかも公園内に広がる泥炭層は出産の巣穴を掘るのに適しているため、世界でも最大規模の貴重な営巣地として知られている。子を宿した母グマは地面に穴を掘って11月末から12月の初旬にその中で出産する。生まれたばかりの子グマは体重が1キロにも満たない。毛も生えず目も見えていない状態では極寒の地で生きていくことはできない。そのため、生後3ヶ月間は地中で母グマのミルクを飲んで過ごし、外に出ていけるほど体が成長してから地上に出てくるのである。ぼくはその瞬間を目撃するため、同じ目的で世界中から集まってきた約20名ほどとともに、原野に建てられたロッジに寝泊まりしていた。ある日、スノーモービル隊が雪の斜面に巣穴の兆候を見つけた。母グマがたまに排泄のために出てきて足跡を残すのだ。周りに子グマの足跡がなければ、まだ地中の巣穴にいるはず。それから毎日、大型のバンを改造した雪上車でその場所に向かい、夜明けから日暮れまで観察を続けた。待ち続けること12日。ようやく母グマが地上に姿を現した。固唾を呑んで見守っていると、その後を追って2頭の子グマがそろそろと出てきた。母グマよりもさらに真っ白な毛並みが輝いて見える。あたりは雪と氷に閉ざされた、体感気温マイナス50度の世界。子グマたちが初めてみる地球の景色は、そのつぶらな瞳にどう映っているのだろうか。初めてみる世界Vol.19写真家 大竹英洋 (神戸市在住)『そして、ぼくは旅に出た。』(あすなろ書房)で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。写真集に『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)がある。〈写真展情報〉2021年1月9日〜2月28日に教文館ナルニア国(東京・銀座)とギャラリーTen↓Sen(千葉・松戸)の2箇所で開催。詳細は各ホームページをご覧ください。16

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