KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年1月号
28/55

昭和を代表する重鎮監督は、〝便利で手軽になったデジタル時代〟に抗うように、〝撮り直しが通用しない不便で手間がかかるアナログ撮影〟に挑んだ。その情熱が、2時間26分の長編に凝縮され、焼き付けられた。新作の舞台は昭和。「もはや戦後ではない」。物語は1956年、経済白書に書かれた、この言葉が生まれた年から始まる。経済成長を遂げ、バブル経済で絶頂を迎え、やがて好景気が後退し、不景気のまま終焉する昭和の時代を描きあげる。新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第5回は映画監督、井筒和幸さん。映画は大スクリーンで見るもの…フィルムに焼き付けた創作魂THESTORYBEGINS-vol.5映画監督井筒 和幸さん⊘ 物語が始まる ⊘の事態に戸惑いながらも、ほっと胸をなでおろし語る。「本来、映画は携帯のスマホのような小さな画面で見るもんじゃないよ」そのこだわりは強く、デジタル撮影が全盛の日本で、新作の撮影は、あえて全編、フィルムカメラで敢行した。「本当は35ミリフィルムで撮りたかったが、もう日本製フィルムが手に入らない。だから、スーパー16ミリで撮影したんです。何度も撮影テストした結果、スクリーンでも十分な精細度で上映できると分かったから」携帯画面からは伝わらない熱情「映画は劇場で見るもの。大スクリーンで見てほしかったから公開が決まって本当によかった。でも実は〝正月映画〟なんて、これまでの監督人生で初めてなんですよ…」現在、全国で公開中の新作映画「無頼」は、当初は昨年5月に封切られる予定だった。しかし、新型コロナウイルスによる影響が深刻化したため、急きょ公開日が12月へと延期され、〝正月映画〟となったのだ。そ32

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る