KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2021年1月号
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ノースウッズに魅せられて写真家 大竹 英洋初めてノースウッズの地を踏んだ1999年の春。木々の名前も動物たちのことも知らず、ただこの森の奥にすむというオオカミとの出会いを夢見ていた。旅が始まってまもない頃の夕暮れ。ミネソタ州北部の湖でまだ慣れないカヤックを漕いでいると、どこからともなく、悲しげに響く声が聞こえてきた。 「アオ─────ン、アオ─────ン」 「まさかオオカミの遠吠え…?」と胸が高鳴り、その正体を突き止めようと、声のする方角を見た。しかし視線の先にいたのはオオカミではなく、のちにルーン(=ハシグロアビ)という名を知ることになる水鳥だった。ルーンはそのコントラストの効いたシックな姿が目立ち、ミネソタの州鳥で、カナダでは1ドルコインに刻印されるほど親しまれている。背中に乗せたヒナに、オスとメスが交互に小魚を与えている姿ほどノースウッズの水辺で微笑ましい光景はないだろう。ルーンの特徴はやはりその歌声だ。悲嘆の叫びを意味する「ウェイル」、小刻みに喉を震わす「トレモロ」、裏声が伸びやかな「ヨーデル」、そして、短く呟く「フート」。それら4つの声を使い分け、自分たちの縄張りを主張したり、つがいや親子でコミュニケーションを図る。国立公園の父として知られるアメリカのナチュラリスト、ジョン・ミューアはその声を「ウィルダネスで聞こえる全ての音の中で、もっとも野生的で、かつ胸を打つ」と讃えた。さらに形容は「奇妙で、悲しく、ひどく落ち込んだ、地上のものと思えない叫び、半分笑い、半分むせび泣き」と続く。そのどれもが当てはまるあの声は、湖畔で実際に体験して欲しいとしか、他に伝える方法が見つからない。野生の呼び声Vol.18写真家 大竹英洋 (神戸市在住)『そして、ぼくは旅に出た。』(あすなろ書房)で梅棹忠夫山と探検文学賞受賞。写真集に『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス)がある。〈イベント情報〉2021年1月8日(金)18時、神戸市立博物館内のカフェ「TOOTH TOOTH凸凹茶房」にてスライドトーク。定員10名。詳細は神戸市立博物館ミュージアムショップのFacebookにて。16

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