KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2020年10月号
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は河田さんと通じるところがあります。ビゴさんは〝動物的本能〟でパンを作る人でした。作為的で不作為なものづくり、その不作為が重要だと思うんです。目で見るものでも意図するものでもなく、手が全てを感じている。そこは現在も変わらず、僕が大切にしているところです。シンプルという原点に戻り中身に手を掛けて作る―「サ・マーシュ」オープンに至ったのはなぜ?無駄なものを削ぎ落とす時期にきていると考えるようになり、シンプルという原点に戻ろうと気持ちを切り替えたからです。見た目だけで選んでもらうのではなく、中身にもっと手をかける。お客さんに言葉でも伝えたいと思い、バーがある対面販売にしました。―そして奥さまと二人で新たな「サ・マーシュ」のスタートを切ったのですね。2年前、スタッフが抜けたタイミングで解散しました。今は、自分が作りたいパンを焼く。試行錯誤。でも楽しい。私自身の暮らしがパンなんです。それをお客さんに喜んでもらう。パン屋にもこういう形があっていいんじゃないかな。5年後に一つの結果を出そうと思っています―変わったことはありますか。パンのサイズを大きくして切り分ける形にしたものがある。変わったといえばその程度です。今までと違った工夫をしてみると、また違う感想をいただける。ひとつひとつが新鮮です。他はないなぁ。厨房に入ると今も変わらず18時間座ることなく仕事をしています。そこはコロナ禍も変わらなかった。いつもと同じように仕込みやその他の仕事をして、パンを焼いていた。僕の人生はそういうことなんだと思います。―夢を実現して「ブーランジェリー コム・シノワ」をオープンしたのですね。「君は舞台で自由に踊ってくれ」と言っていただいたけれど、意味が分からなくて(笑)。でも嬉しかったなぁ。「パンは生活に必要なもの」という気持ちがどんどん強くなっていった頃です。「オー・ボン・ヴュータン」(東京都)の河田勝彦さんの存在も大きいです。並んでいるどのお菓子も、整っている奇麗さではなくて。そこにはこだわらない。でも信念がある。それが河田さんのお菓子です。私のものづくりの姿勢に大きな影響を与えてくれた一人です。どうしてもパンづくりがしたくて、「ビゴさんのところ(芦屋・ビゴの店)へ行きたい」と話したときも「そうか」と送り出してくれました。フィリップ・ビゴさんのパンには「すごい!こんなバケットはとても作れない」と驚きました。形はそんなに良くはないんですよ。でも惚れ惚れする。これ35

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