KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2020年3月号
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に夢中である。それでモデルになってくれとブロディ先生に頼むと、私よりあの子がきれいですワと級の中の美人生徒をモデルにさせる。しかしその絵がいつもブロディの顔であるのも知っている。この学校にはこのブロディ先生を愛しているもう一人の金持ちの音楽の先生がいる。妻もないこの先生はお人良しの善人型。ところがブロディは図画の先生につきまとわれて、こんどの日曜日に無理に誘われて困っていると嘘をつき、それで、あなたの田舎の家に招待のあなたから私への手紙を下さいな、そう音楽の先生に頼む。音楽の先生は大喜びである。それでブロディはその音楽の先生の田舎の家へ行く。しかし、三人くらい生徒をわざとつれてゆく。このブロディの・・・愛のかたちは、男の愛をためすことと男をじらし苦しめ、その反応を見ることで、自分の将来の安全の念をおそうとする。これでは男は待ちきれない。けっきょく図画の先生からも音楽の先生からも、見放された・・・というよりも二人がブロディを、あきらめてしまう。実はブロディ時は昭和の初めごろの一九三〇年代。スコットランドの女子高校の美しい女先生ブロディ(マギー・スミス)は、教室でセックスの話まで平気でしゃべるので生徒には受けがいい。この先生、妻のある図画の先生を愛している。その図画の先生も彼女は、あきらめるようにさせることに酔っているウヌボレ女でもあった。けれども、もう一つその奥ではどこまで自分について来てくれるか、その愛をたしかめようとする必死の根性。お気の毒であるが、これをオールド・ミスの愛のかたちと私は見た。もっと悲しい愛のかたちもある。アメリカ映画の「軍曹」という兵隊映画は、中隊の曹長(ロッド・スタイガー)が部下の美青年の一等兵(ジョン・フィリップ・ロー)を思いつめる。一等兵には美しい愛人がいる。フランス娘のその女と一等兵が相抱く姿を見ながら酒をガブ呑みする。しまいには耐えきれなくなって、君が好きなんだよ、ほしいのだよと酒の乱れにのって接吻する。男と男が唇を合わせて接吻したアメリカ映画はこれが初めてだった。これはどうにも仕方のない愛だった。しかもその接吻は部下や仲間の見ている酒場でおこなわれた。一等兵は自分の手で自分の唇をふいた。あくる朝、それは秋の森が黄色く赤く美しい朝だった。その森で軍曹は自殺した。1969年9月号掲載41

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