KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2020年2月号
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ばいいのか、やっぱり田舎者の精神は抜けないまま、気持ちはおどおどしたままであった。神戸在住の納君にまかせて、僕は初日の飾りつけに顔を出した程度で、あとの記憶はほとんどない。時間を持て余していた、その間のグループ展であったのか、当時の記憶を想い出そうとしても紗がかかったようにぼんやりしていて現実感がないのである。だけど、このグループ展の結果、僕の人生に決定的な、そう、僕にとっては事件と呼ぶべきことが降って湧いたのである。(つづく)光ポスターなどを描いたのか疑問である。グラフィックデザイナーに憧れていたわけではない。この当時はまだ商業図案とか、まあ神戸などの都会では商業美術と呼ばれていた時代である。将来の職業は決まっておらず、高卒と同時に郵便局に勤める予定であったが、美大受験にまつわるトラブルで、郵便局に入るタイミングを逸してしまった。4人が集まると意欲的な将来のビジョンを語り合うのだが、僕はあまり野心や野望のようなものはなかった。神戸で展覧会ができただけで喜んでいたように思う。初めて踏んだ神戸の地であったが、どのようにして神戸と溶け合えループ名を決めなきゃということになって、「きりん会」と命名された。きりんのように首を長くして未来を見つめようという主旨だったのかもしれない。早速グループ展を開催しようと、話はとんとん拍子に決まっていき、神戸の元町通りにある2階の喫茶店で、全員がそうであると思うが、生まれて初めてのグループ展である。他の4人はどんな作品を出品したのか記憶はないが、僕はB半サイズのパネルに「JAPAN」と「FUJI」の観光ポスターを描いた。今見ても技術的な稚拙さは認められないし、構成もしっかりしているように思う。それにしても、なぜ観美術家 横尾 忠則プロフィールよこおただのり 美術家。 1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、小説「ぶるうらんど」で泉鏡花文学賞、「言葉を離れる」で講談社エッセイ賞受賞。「病気のご利益」(ポプラ新書)が2月12日に刊行される。現在、横尾忠則現代美術館にて「兵庫県立横尾救急病院展」を開催中。(5月10日まで)http://www.tadanoriyokoo.comきりん会のメンバー222222

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