KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2020年1月号
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私が神戸に住むようになったのは昭和四十一年からですが、それ以前から神戸にはよく足をのばしていましたので、私と神戸とのかかわりあいは、もうかれこれ十年ほどになります。よくいわれるように、神戸は何といっても海と山に囲まれた詩情のある町だし、日常の楽しみがたくさんあり遊ぶことに一生懸命になれる町です。他の都市の若い女性が神戸にあこがれるのも、一つには坂の多い景色が旅人の夢をそそるからでしょう。私は神戸のなかでも六甲山麓の山の手が好きで、特に布引から東に行く護国神社の道が好きです。私が神戸を舞台にした小説を書いたのは「窓を開けますか?」が最初ですが、神戸という町は題材が限定されるので、モダンですっきりした小説にしたい場合はいいけれども、もっさりした小説にはだめ。だから庶民的な小説を書く場合は神戸を離れて、架空の町の名前をつけます。それと時代小説や経済小説などには不向きでしょうが、私の小説はムードとか、カラーのほしい、いわゆる〝気分小説〟とでもいうようなものですから、その点神戸はもってこいです。人を酔わせる町ですから。仕事のうえからいっても、神戸は東京から離れていて余計な雑音が入らないし、離れている割には都会なので都合もいい。こういう私の好きな神戸が今後とも住みよい、楽しい町であるためには、これ以上人口を増やさないことと、やたらと町を大きくしないこと。それと、経済力だけが住みわたしの神戸観田辺 聖子(作家)38

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