に進むに従い、徐々に光が絞られていき、施設の中心となる展示室「もう一つの書斎」に辿り着く。3層吹き抜けの「書斎」を囲うのは、小説執筆の手がかりにされた膨大な量の書物をおさめる〝本の壁〟だ。そこにステンドグラスの窓からの光が入り込む。暗闇に灯る光は作家が作品に込めた未来への希望を、その多彩な表情が、司馬さんが愛したさまざまな個性をもった人間という存在を象徴する。作家の創造世界の奥行きを、空間そのもので伝えたいと考えた建築だった。司馬邸の庭を拡張したような記念館の前庭も、普通は庭木には用いられない雑木を特に愛しんだという作家の温かい人間性を思い、つくったものである。司馬さんは、常々「現代日本は市民社会として成熟する前に衰退期に入ってしまった」と憂いておられた。没後二十年余り、日本の未来は、司馬さんの書かれていた頃よりも、さらに不透明なものとなりつつある。相次ぐ自然災害被害に情報技18
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