KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2019年4月号
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彼の撮影も何度か目の当たりにしましたが、集中力の凄さを感じました。生活のすべてを一枚の写真を撮るために捧げている。シャッターを切る一瞬のためにどれだけのお金と時間がかかり、どれだけの計算が練られているか。直接何か教わった訳ではないのですが、彼の姿勢に触れたことは、僕にとって得がたい経験でした。困難だけど可能性は無限帰国後はアルバイトしてお金を貯めて、ジムの紹介で知り合った、世界で初めて南極大陸を横断した探検家、ウィル・スティーガーの小屋に通ったり、さらにミネソタで知り合ったカヌーイストの案内でカナダへ入ったり、少しずつノースウッズの世界が広がっていきました。辺境を飛び回って来たジム・ブランデンバーグが「世界で一番難しい」と評するように、動物は人に慣れていないし、広大すぎて出会うのは稀だし、湿地も多く移動も大変、冬はマイナスの世界、高低差がないから画面の構図も単調になりがち。けれど、ほとんど誰もやってないからこそ、やりがいもあって、自分のフィールドに決めました。ノースウッズは日本が4つ入る広大なフィールドで、世界最大級の原生林が残っています。チャーチルというところには10~11月にホッキョクグマが集まり、2~3月頃には子熊が出てきます。9月の終わりになるとヘラジカたちがメスを求めて動き始めます。世界最北の砂丘もあります。そういうことが少しずつわかりはじめ、行くたびに新しい情報が入ってきて、あっという間に20年が過ぎましたが、旅をするフィールドはまだまだ無限に広がっています。自由という旅の魅力ノースウッズはカナディアンカヌーが生まれた地でもあります。カヌーは担げるようにデザインされていて、湖と湖が繋がっていないところ、滝や急流の地点は担いで移動します。水に浮かべれば櫂一本で自在に移動でき、浅いところにも入れる。その雪の下のネズミを狩るアカギツネ10月末。ハドソン湾の結氷を待つホッキョクグマ24

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