かに対話するような家をつくろう」と、周囲に馴染む三角屋根でレンガ壁の建築を、クスノキを残したままつくりました。結果として二つの“住吉”の住宅は、大分隔たった佇まいになりましたが、発想の原点は、もとからある“環境”への応答で、変わりありません。神戸の“住吉”――《松村邸》のクライアントは、大手商社創業者の血筋にあたる方で、娘さんが二人いました。大らかで温かな家庭でした。10年前、その娘さんから「生まれ育った家と同じ形で、軽井沢に別荘をつくりたい」と連絡を受けた時は驚きました。「魂の棲む家をもう一つはつくれないから」と丁重にお断りしたのですが、住いを愛しむ、彼女らの気持ちは心に響き、建築家の“責任”を改めて痛感しました。《松村邸》は、昨年、メンテナンス工事を行い、40年前、完成当初の姿を取り戻しました。眺めていると、過去の時間が甦り、何か背筋の伸びる思いがします。やはり、住まいづくりこそが、私の建築の原点です。17
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