小林武史さんに何気なく話したら、いま中国では、音楽や映画の世界も同じように日本人の作品が高く評価されているという。僕が菓子で表現している、日本人が得意な「ふんわり、しっとり」という食感は、日本では市場性が高い。小林武史さん曰く、岩井俊二監督の作品も「しっとり」という表現がしっくりくるそうで、彼の作品も中国では市場性があり非常に人気があるそうだ。ただ、中国との付き合い方は今後しっかりと考えていかなければならないという点では同じようだ。お菓子にせよ音楽にせよ、なぜ日本のものが中国で人気なのだろうか?それは中国人にないものを日本人が持っているからだと思う。例えば徹底的な丁寧さや、四季を愛でる文化や美意識は日本人独特の感性だし、公共の場でのマナーの良さ、礼儀正しさがニュースとなって流れることもある。僕の原動力は心配心だ。はじめてフランスでショコラのコンクールに出たとき、通用するなんて思ってもいなかった。だから伝わらないだろうと心配して、しっかり企画書を書き写真や断面図を載せた。すると、最優秀賞が取れてしまった。企画書のおかげかどうかはわからないけれど、僕は伝わった!と思った。僕には子どもの頃から自分が思ったことをしっかり伝えようという熱があったと思うが、それを企画書という形に落とし込んだのだ。翌年も同じように企画書を添えたらまた最優秀賞。すると4年目からは、コンクールに企画書を添えるというルールが追加された。それは日本人の丁寧さがフランスのルールを変えた瞬間であり、僕の中で手応えをつかんだ瞬間にもなった。ところでいま、価格と価値観のバランスが悪くなってきてると思う。良い素材を使って相応の価格で販売した場合でも、恐らく多くの方の目が真っ先に向くは、価値ではなく、価格だろう。これは以前から大きな問題だと思っていて、消費者の方々もお菓子の周りにあることをもっと知っていただかなければいけない時期に来ていると思う。例えば、クリスマスケーキ。毎年価格は変えて来なかったが、その裏では、小麦やバターなどの原材料の価格高騰、そしてこの時期の国産の苺の価格は今も上がり続けており、一粒百数十円もするのである。これは僕の店だけの話ではないし、洋菓子業界だけでもない。フランス料理だって肉も魚も良い素材は高騰、そこに手間暇をかけるし、ソムリエも雇う必要がある。でも良いものを残そうと思うと利益は不可欠だから、ランチも店を開けて休む間もなく働かないといけない。働き方改革が謳われているご時世なのにだ。一方で、若い子がパティシエや料理人になりたくても、きちんとその技術を身につけることが難しくなりつつある。働き方改革で僕らが若い頃と同じように早朝から深夜まで働き詰めという訳にはいかず、時間が限られてしまって技術の習得の機会も減り、良い人材が輩出しにくくなってしまうだろう。だからせめて、日本人の美意識や丁寧さを失ってはいけない。緻密に緻密に緻密に、自然を感じながらコツコツ積み重ねる粘り強さ。そして闘志を秘めつつ謙虚である姿勢は、世界に通用する日本人の強みなのだ。日本人よ、さぼるな!手を抜くな!日本人が世界に誇れるところはまずそこなのだ。17
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