KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2018年10月号
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らない。ただ、その中で一人だけ、僕の目を見てウンウン、ウンウンと激しく頷いてくれている子がいたので、その子に前に出てきてもらって、みんなの前で「ありがとう。君が頷いてくれるから助かってるんや」と伝えた。いろいろ行った中には、先生が一生懸命メモしてくださっている学校があって、そういうところは先生のそういう姿勢が伝わっているから、生徒もちゃんと聞いてくれている。大人たちの姿勢を生徒たちはちゃんと見ている。これは間違いない。ところが後ろの方で先生が2人、ずっと私語をしていた。僕は怒っていた訳じゃないけれど、なんだか悲しい気分になってきた。そこでこう言った。「ごめんなさい、僕の身にもなってください。大切な話をされているのかもしれませんが、席を外して話をしてくれませんか」と。その一言で会場の空気が変わった。生徒が「このおじさん面白いかもしれない」と思ったのだろう。質問は5人ほどだったが、ひとり印象的な子がいた。「一つ得意なことを持て」という話に対し、「僕には何一つ得意なことがないのだけれど、その場合どうしたら良いのですか?」という。だから僕はこう答えた。「400人もいる前で、手を挙げて自分の恥をさらすような発言をしている。その勇気がすごい」と。とても真面目そうな子で、ちょっと悩んでいる様子だったから、みんなの前で彼といろいろしゃべることにした。「部活は何?」「野球部です」「レギュラー?」「いやいや、補欠に決まっているじゃないですか!」「レギュラーは無理だとしても、何とか試合に出る方法はあるはずだよね。得意なプレーは?」「…バントだったらできるかなぁ」「地味やけど、やってみるか!」そう決めたら、バントを極めるという夢に対し、具体的な目標設定が必要になってくるが、その前にバント練習のデメリットを一緒に考えた。デメリットは練習が地味。だから続けにくい。じゃ、どうやったら練習を続けられて上達できるのか?それを一所懸命考えよう。バントをするなら足が速い方が良い。そのためには技術練習だけでなく、基礎体力の強化という具体的な目標も出てくる。やり方も楽しくした方が良い。そんなふうに話を交わしているうちに、彼は「やる」と言い出した。「すべてダメだ」と言っていた人間が「バントで一番になる」と宣言したのだ。前号でも書いたが、夢を夢で終わらせないためには夢を目標に変換することが大切だ。そして目標までのプロセスとして停車駅をちゃんと示せば、質問してくれた生徒のように意識は変わる。でも、誰かがこの子に付き合って、話を聴いて言葉をかけ、時には褒めて時には喝を入れてあげなければ成就しないだろう。「目標の達成の方法がわかった子は、やがて夢に近づくのではないか?」と僕が話すと、会場は静かに盛り上がってきたような感じがした。その日の晩、その盛り上がりは確かなものだったことがわかった。なんと、僕のインスタグラムのフォロワーが急に増え、生徒たちから「面白かったです」というメッセージがたくさん舞い込んだのだ。嬉しかった。でも、その場で反応してくれた方が話し手としてモチベーションが上がるのだけど(笑)。17
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