KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2018年4月号
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神戸とオリーブと小妖精と父久坂葉子と父 川崎芳熊 トアロードに面して残る唯一の木造西洋館である「東天閣」は、明治27年にドイツ人のビショップ邸として建てられたが、その東向かいに現在「神戸北野ホテル」が建っている。明治12年、この一角の3千坪の敷地で、明治政府の勧農政策によりオリーブが栽培された。フランスから持ち込まれたオリーブの樹550本が見事な実をつけ、初の国産オリーブ油になった。さぞ美しい景色であったろうと思う。しかし、政府の財政難のために明治24年、この「神戸阿オリーブ利襪園」は、川崎造船所を創立して神戸川崎財閥を興した薩摩出身の川崎正蔵に売却された。正蔵は川崎造船所の初代社長に、同じく薩摩出身の31歳で後に神戸新聞を創刊した松方幸次郎を立てている。 この地に、久坂葉子(本名・川崎澄子)が昭和24年から21才で自死する昭和27年までを過ごした家があった。短いが優艶だった作家活動は、すべてこの家で営まれた。今もホテルの北隣に現存する骨董店「まるきや」は、彼女が19才のときに芥川賞候補作『ドミノのお告げ』やその原型となった『落ちてゆく世界』に登場する。戦争により没落していく男爵家が生活に困り、生活具や美術品を売りにゆく場面が、彼女の作品に流れる魂の翳りを暗示している。連載 神戸秘話 ⑯瀬戸本 淳(せともと じゅん)株式会社瀬戸本淳建築研究室 代表取締役1947年、神戸生まれ。一級建築士・APECアーキテクト。神戸大学工学部建築学科卒業後、1977年に瀬戸本淳建築研究室を開設。以来、住まいを中心に、世良美術館・月光園鴻朧館など、様々な建築を手がけている。神戸市建築文化賞、兵庫県さわやか街づくり賞、神戸市文化活動功労賞、兵庫県まちづくり功労表彰、姫路市都市景観賞、西宮市都市景観賞、国土交通大臣表彰などを受賞文・瀬戸本 淳 (建築家)16

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