KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2017年10月号
38/51

 森から注ぐ朝風が爽やかな朝7時、秋空に太陽が微笑む12時ちょうど、そして黄昏が六甲の稜線を映す夕方5時、夙川の街を慈悲深く包み込むように、アヴェマリアの清らかなアンジェラスが流れる。 アンジェラスとは、天使による聖母マリアへのキリスト受胎告知を祝する、祈りの時を伝える鐘のこと。この音を奏でるカリヨンは、カトリック夙川教会の尖塔の下にある。 日本最古といわれるこのカリヨンは、23㎏から452㎏まで大小11個の鐘を備え、11の音階を持つ。いずれも今から80年以上前に、フランスで製造されたものだ。アンジェラスは自動演奏によるもので、モーターで巻き上げられたおもりの重力を利用し、さながら巨大なオルゴールのような仕組みで音を鳴らす。デジタル万能の現代に、80年以上前のアナログでメカニカルな機械が真鍮の歯車を回転させて元気に動いている。 この自動演奏機能のほかに時報機能(現在は停止中)も有し、鍵盤による自由演奏や引き綱による打鐘も可能だ。鍵盤はその一つひとつを押し下げるのに力が必要で、ピアノのような軽やかな演奏はできないが、結婚式などセレモニーに合わせた曲を奏でることができる。鍵盤を叩いたのか引き綱を引いたのかわからないが、幼き頃の遠藤周作は悪戯でこの鐘を鳴らしている。 大正12年(1923)、カトリック夙川教会は現在の場所に土地を得てカリヨンを備えた聖堂の建設を計画したが、まず大正15年(1926)~昭和2年(1927)にNo.4~6の3つの鐘が到着、仮設のやぐらに設置された。これらの鐘には「1926」のレリーフがある。 そして昭和7年(1932)4月、聖堂が落成し、その約半年後にすべての鐘が据え付けられ、カリヨンが完成した。当時から自1932年7月、フランスから出荷前にパッカール社で仮組みした写真が残る川Shukugawa清麗な音色で夙川の人々の心を濯ぐ日本最古のカリヨン38

元のページ 

page 38

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です