KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2017年1月号
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れていません。また、保険証があれば誰でもすぐに診てもらえ、そのような制度が半世紀以上続いていますので、早期に医療機関にかかることで症状が軽いうちに治療ができることも医療費が安い理由かもしれません。患者の自己負担という角度から見ると、通常は医療費の1~3割を支払う必要がありますが、高額な医療を受けた場合には高額療養費制度が適用され、一定の金額以上は保険者が負担することになっていますので、個人が支払う費用負担が少ないということも言えます。─日本と対局にあるのがアメリカですね。空地 アメリカはもともと私的な医療保険制度が中心ですので、保険料は保険会社の利益や株主の配当にも回されます。高齢者や低所得者をカバーする公的な医療保険もありますが、医療の高度化にともない私的な保険がどんどん高額になり、それに合わせて公的な医療保険も高額になりました。しかも医療保険に加入できない国民が約20%、約4千万人おり、それをなんとかしようと動いたのがオバマ大統領です。日本のような国民皆保険制度をつくろうという素晴らしい理念のオバマケア政策に我々も期待していたのですが、成立するまでの過程で、議会の反対、製薬メーカーや保険会社の反発などもろもろの制約がかかりました。結局、医療保険料が上がったのにもかかわらず、保険で治療できる病気が減ってしまったとか、企業が正規雇用者を医療保険の加入が不要な非正規雇用に変えてしまうとか、いろいろな事が起こってしまい、アメリカ国民には不満や怒り、諦めが広がっているのではないかと思うのですよ。大統領選挙でトランプ氏が勝ったのは、オバマケアの失敗がアメリカ国民の失望につながって民主党が見放されたことに一因があるのではないかと思います。トランプ氏がオバマケア反対派の人材を厚生長官に就けたことで、どういう改革になるのか注目されるところです。─日本の皆保険制度にはどのような脅威がありますか。空地 海外からの脅威は主にアメリカからですね。世界に誇る我が国の皆保険制度がTPP(環大平洋パートナーシップ協定)の中で協議され、アメリカのような市場原理にのっとった保険制度に改悪されてしまう危険性や、公的価格で医療費が抑えられていたものが自由価格制度に移行して高騰し、皆保険制度が名ばかりになってしまうことなどを大変危惧していたのですが、トランプ政権になればたぶんTPPは見送られるだろうと思います。しかし、新たにTPPを締結するための交渉条件として、日本から医療保険制度を含め譲歩を求めてくることも考えられますし、TPPの代わりにFTAという二国間協定を結ぶことになるかもしれず、そうなればTPPと同じ危惧があります。32
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