KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2016年9月号
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─海外でも費用対効果評価は導入されているのでしょうか。池上 イギリス、フランス、ドイツ、アメリカなどで導入されています。イギリス、フランス、ドイツでは、評価する機関が保険収載を決定する機関とは独立し、評価が保険償還や価格償還、医療ガイドラインに反映されます。─実際に医療費削減に結びついている国はありますか。池上 イギリスでは1999年と2009年を比べると、薬剤コスト比率が12・5%から9・7%に低下していますが、これは後発剤(ジェネリック)の使用割合が増えたことと先発医薬品の価格を低めに調整したためと考えられています。フランスやドイツでは高額薬剤の使用量の影響で、期待された費用削減効果はみられません。つまり、費用対効果評価の導入による薬剤費抑制効果は明らかではありません。─費用対効果評価にはどのような課題や問題がありますか。池上 まず、評価の質、均一性や公平性、独立性、透明性の確保が大きな課題です。ある医薬品を評価するとき、実際にそのお薬を使っている患者さんは年齢も病状もさまざまですので、データにばらつきが出てしまいますが、そのような患者背景を正当に評価できるデータが捉えられるのかという問題があります。そして費用対効果評価の対象をどうやって選んでいるのか、その理由が明白でないのも問題です。 また、現在の診療ガイドラインとの整合性も大きな課題です。医療機関は基本的に診療ガイドラインで定められた治療をおこなっていますが、もし費用対効果評価でその治療法の評価が悪かった場合、今まさにその治療を受けている患者さんにどう通知しどう対処するのかは、現場の医師として患者との信頼関係を損ないかねない非常にデリケートな問題です。 さらに、本当に必要とされているお薬が費用対効果評価によって行き渡らなくなる可能性もあります。高額な医薬品が評価対象になりやすいので、償還価格上昇や保険収載外医薬品増加の可能性もあり、その結果保険外診療や混合診療、ひいては医療格差に至る可能性も秘めています。海外の例からも、費用対効果評価が医療費削減に結びつくとも限りません。費用対効果評価の目的は、医療費削減や医療経済の効率化の追求ではなく、すぐれた医療技術や医薬品が患者さんに安全かつ適切に提供されることにあるので、慎重な運用が望まれます。42

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